Whatever

昭和十八年の太宰治

「(前略)しかしなぜこの戦争期、敢えて『右大臣実朝』を書いたか。

  「平家ハ、アカルイ。」
  「アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。」
  「無理カモ知レマセヌガ、学問、ソレダケガ生キル道デス。」

この片仮名書きになっている実朝の言葉が、当時のぼくたちの魂にまるで予言のごとく刺った。
戦争末期の坂口安吾も書いている異様な明るさを体験していたぼくたちは「アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ」という言葉に戦慄をさえおぼえたものだ。実朝の滅亡と二重、三重写しに、日本の滅亡、作者の滅亡、そしてぼくたちの滅亡への予感が秘められているように思えた。ございます調のみやびな文体の中に、作者の戦争に抱いていた終末感、わびしさ、本質的なデカダンスのにおいを感じていたのではないだろうか。(後略)」   
               奥野健男による、新潮文庫版『惜別』の解説より
  1. 2008/08/15(金) 06:08:41|
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